告知の日 1 − 9月5日、人のいない待合室 −

11/13/2022

告知

t f B! P L


9月5日を迎えるまで、なぜか大丈夫な気がすると思っていた。

だって4割くらいの確率で悪性だろうって言われて検査したけど大丈夫だったもん。それと同じ場所の組織を取ったんだから。だからきっと大丈夫。前よりもごつごつ感が増したから、念のための検査だったんだと思う。

そう思っていた。
思っていたのだけれど。この日はなんだかいつもよりも待たされる時間が長い気がした。そして待合室に誰もいなくなったところで名前を呼ばれた。


先生は一呼吸おいてから言った。

「検査の結果が出てね、がんだったんだよね。でも早期だからね、命にかかわるようなものではないから。しっかり治療をしていきましょう。」

せりふは正確ではない。こんなようなことを言われたのは覚えている。「悪性」という言い方はされずに「がん」と言われたとは思う。でもそれくらいしかわからない。なにしろこの日、先生が説明してくれた内容については、ほとんど記憶がないのだ。

「メモ...メモをとってもいいですか」
「この紙を渡すから(とらなくて大丈夫だよ)」

先生は優しくそう言い、検査結果などが書かれた紙を見せながら説明をしていった。
今回の検査結果のこと、もっと詳しい検査が必要なので追加の検査に出すこと、それにより追加料金がかかるということ(無知だったわたしはなにもわからず頷いたが、この検査はサブタイプを調べる検査だった)、これから行う乳がんの治療にはこんなものがあるということ、手術を受ける病院を決める必要があることなどについてだ。

その紙にはエリア的に近いところや乳がんで有名なところなど8つの病院の名前が書かれていて、ひとつひとつについて簡単に場所や実績、クリニックの先生が週1回勤務してる病院だなどの説明をしてくれたが、全然頭に入ってこなかった。

「どの病院でもしっかり治療を受けられるよ。どうしようか?」
そう聞かれたけれど、今後手術や治療をお任せすることになる、自分の命を預けることになる病院をその場で、しかも真っ白な頭で決めることなどできなかった。

ふと自分の口から「はあ」「どうしよう・・・」と言葉がこぼれているのを感じた。これは病院をどうしようということではなくて、この先の仕事やプライベートを、そしてこの先の人生をどうしていけばいいのか、いや、どうなっていくのかと、そんな気持ちから出たどうしようだった。

これを両手で鼻と口を覆いながら言うもんだから、看護師さんが「大丈夫?」とティッシュを差し出してくれた。そこでわたしは「ああそうか、これって泣く場面なんだな」と思った。ティッシュを1枚取ったが涙は出なかった。「きっと大丈夫」と信じていたわたしは万一のことを考えてこの先の治療のことを調べることなどを一切しておらず、これから先に、自分に訪れる未来がどんなものなのか未知数すぎて、告知をされてもなにも実感がわいてこなかった。ただただ頭が真っ白だった。

「(病院の選択について)少し考えてもいいですか…」と声を絞り出し、「なるべく早いほうがよいと思うから」と言われ、一週間後の月曜に再訪することとなった。「なるべく早いほうがよい」の言葉に胸が痛んだ。もたもたしている間に悪いところが大きくなってしまう可能性があるということなんだ。

(その日先生が手書きで説明してくれたメモ)

お礼を言って病室を出て、誰もいない待合室を見て「そうか告知をするときは、人がいないようにしてるのか」と思った。偶然だったのかもしれないけれど。

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